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私は、介男子(かいだんし)でもある。

介男子とは、私の造語で、介護をする男性のことだ。
歌手の村田英雄先生がジョン万次郎を歌った曲に『あぁ万次郎』という名曲がある。♪とさは〜 しみずの〜 快男子〜♪という部分をもじって私は、♪あつみ〜 なおきは〜 介男子〜♪とよく歌っている。そうやって自分を鼓舞しないと、滅入ってしまいそうになるからだ。

3年前、突然、私は乳幼児2人の子育てと家事、そして介護という3Kに直面した。自宅近くに独居する父が軽度の認知症となり、徘徊が始まり、警察から連絡がくることさえあった。
よくワーク・ライフ・バランスで、子育てと介護は並列して論じられる。たしかに、似ている部分はあるが、異なる部分も多い。

まず、子育ては大変だが、楽しいし、可愛い。しかも、子どもはいつまでも手がかかるわけではないので、やがて今よりも楽になるはずという希望がある。

これに対して、介護はしんどい。
大好きで、尊敬している親が少しづつ壊れていくプロセスに付き添うからだ。
(あんなに頼りがいがあって、強かったお父ちゃんが、こんなになっちゃうのかぁ)という脱力感と無力感にさいなまれる。しかも、先行きが楽になるという見通しはない。底なし沼にずぶずぶと足を踏み入れていく感覚。(いつまで歩き続けるのだろう、いつかこの泥沼に飲み込まれてしまうんじゃないか)という言い知れぬ不安と闘いながら、日々やるべきことはたくさんある。
私の父親の場合は、認知症のみならず、若いときに患った統合失調も再発したので、一時期は本当にたいへんだった。

息子を連れて実家に行くと、父はとても喜ぶ。
(あぁ、お父さん。とても喜んでくれてるなぁ)と安堵する。
次の瞬間、父の言葉に凍りつく。
「ところで、おまえはホンモノのなおきか?最近、ニセモノのなおきがどこかから現れてくるようなって困ってるんじゃ。おまえはホンモノか、ニセモノか?」

実は数日前、父の暴言に売り言葉に買い言葉でやり合ってしまったことがある。どうやら、その時の私を見て、(父親に対して、こんなモノの言い方をするような息子はニセモノに違いない)と思いこんだらしい。
ギロリとにらむ父の双眸を見つめながら、私はそこなし沼に引きずり込まれてしまうような気がした。

また別のある日。
父と私と息子の3人で、動物園に行こうとしたときのこと。
私が車の運転中に、突然、父が錯乱してしまい、後ろから引っ叩かれて首をしめられかけた。このまま事故って死ぬんじゃないかという恐怖で戦慄した。
介男子は、しばしば怪談事(かいだんじ)にも直面することがある。
 
私の妻も働いているため、自分が介護をしなければならない。
当時の私は、別のシンクタンクから半年前に転職したばかり。
「果たしてそんなことが許されるだろうか」。
重い気持ちを引きずりながら、私は上司である佐々木常夫の社長室を訪ねた。私が「実はうちの父親が…」と切り出すと、佐々木は身を乗り出すようにして、じっくり話を聞き終えると、一言。「仕事よりも家族を大切にしなさい。お父さんのそばにいてあげなさい」と温かく促してくれた。
佐々木の根底には、「誰しも事情を抱えながら働いている。お互いを知り、助け合うことが大切」という考えがある。
 
佐々木自身、6歳の時に病気で突然、お父さまを亡くした。当時、20代だったお母さまは、四人の子どもを抱えた未亡人となった。
毎晩、遅くまで身を粉にして働く中でも、お母さんはいつも輝くような笑顔を振りまいていたという。そして、子どもたちによくおっしゃっておられた言葉が、「運命を引き受けなさい」。
佐々木から、このエピソードを聞き、私は深い感動をおぼえた。
たしかに今は大変だけれど、父はその晩年に、親孝行をするチャンスを与えてくれているのだと覚悟が固まった。ワークにもライフにも逃げずに、真摯に向き合っていこうと勇気が湧いた。
 
私の会社は、介護休業などの制度は整っている。しかし、そうした制度は真っ暗なトンネルの先に点灯している街灯のように思えた。たしかに有難いものの、無機質に道を照らすだけ。どんどん前に進もうという気持ちにはならない。
逆に、佐々木をはじめ、周囲の多くの人たちが掛けてくれた、暖かみのある言葉や配慮は、真っ暗な足もとを照らす「たいまつ」のように思えた。
職場の一人一人がワークライフバランス(仕事と生活の調和)をきちんと理解した上で、誰かが困ったら周りが自然に手をさしのべる環境の方が、手厚い制度よりも重要だと痛感した出来事だった。

渥美 由喜(あつみ なおき)
東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長、内閣府男女共同参画会議専門委員。「がんばらない介護生活を考える会」賛同者。

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