『頑張らない介護とは、介護放棄するということではない。介護サービスや人の手を借り自分の生活も楽しむゆとりを持ちながら介護する』ということ。
今年、誕生日を迎えると103歳になる夫の母は90歳前後からボケだし、連日、昼、夜なしに「お金が無くなった」「男がかくれている」などと騒ぎ、食事をしても「私にご飯を食べさせないつもりか」とわめき続けた。実母の狂態に私の夫は力で押さえ込もうとただ怒鳴りかえすだけ。その言動にますます興奮し失禁したりで、私はノイローゼ寸前に追い込まれていた。
こんな姑でも近所の人や来客者には「お世話になってます」と、立派なあいさつをするので傍目には異状が見えず「かくしゃくとしたご隠居さん」といわれて、複雑な思いをしたものである。ある日、偶然、姑の知人に出会い慰めを請うつもりでグチをいうと「あなた、前にお姑さまに意地悪したんじゃぁござんせんか、いま仕返ししてらっしゃるざますよ」と、いわれてあっ気に取られて絶句した。
今になって思えば『何を言ってるざますか、嫁に来て以来、意地悪され続けているのは私の方ざますよ、トイレやお風呂で人知れず幾度も泣きましたざます。おうらみ申しますでざます』と、いい返せばよかったと後悔しきりである。
そのうち姑は銀行や郵便局にも残高が違うと文句を言いに行き、相方から「只今、窓口でいかにも私どもがゴマかしているかのように大声で怒鳴ってます」と電話をもらっては、引き取りにいくようになった。
「どうぞ、神様助けてください」と、わらをもつかむ思いで本屋に飛び込んだら、ずら〜っと並んでいるのは介護の専門書に、介護をして「人間が成長した」「幸せをもらった」という美談調の手記ばかりだ。『冗談じゃないわよ、私は死にそうだって言ってるのに。介護が幸せだって、笑わせないでよ』と怒り『誰も書かないなら私が書こうじゃないの』と心血を注いだのが『老親介護はいまよりずっとラクになる〜心も家計も救われる65の知恵』(情報センター出版局)である。介護者の立場で、介護者のための、介護者を元気にする、介護者を応援する本である。「嫁が姑、舅の世話をするのは当然」「老親に誠心誠意尽くすのが人の道」と献身する介護が主流であった90年代後半に、世間のバッシング覚悟で「頑張らない介護」を提唱したのである。
「帯も解かずに添寝して3ヶ月」ですんだ介護は昔のこと。いまは4〜5年はざら、10年を超えるのもまれではなく30年という人もいるのである。やるっきゃないと1人で抱えこんで頑張ると、やがてストレスから、(1)介護者が病気になる。(2)この人さえ居なければと虐待に走る。(3)思い余って心中してしまう。(4)介護が終わった後に気が抜けて燃えつき症候群になる。(5)介護中毒という悪循環におちいり、人生を失う。
「頑張らない介護」とは、介護放棄するということではない。ヘルパーやショートステイなど公的介護サービスを目いっぱい使い、友人、知人、ボランティアなど人の手も借りて、自分の生活も楽しめるゆとりを持ちながら介護をやろう、という意味である。
50代には50代の、60代には60代の人生があり、自分に余裕が持ててこそ、人にも優しくなれるのだから。介護の第一の仕事は介護者自身の健康を良好に保つこと。介護は頑張らないのが良い介護。このことをいつも忘れないで欲しい。
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